[目的]一般に、穀物飼料主体の飼養形態をとる肉牛肥育では、反すう胃内性状を良好に維持するためや喰い止まり・鼓張症・アシドーシスなどの疾病予防のためにも、反すうと唾液分泌促進、繊維質マット形成などに効果が認められる繊維質飼料の給与方法などに苦心が払われている。たとえば、我が国の上質牛肉生産の象徴的存在である松阪牛や前沢牛の生産農家は、「風土が肉牛を作り、水田がおいしい肉を作る」という言葉を頻繁に口にし、良質な稲わらの吟味や確保に努めている。本研究では、彼らの確かな経験と知識に裏付けられたこの言葉の意味を深考して「濃厚飼料多給のもとで、優れた粗飼料が具備すべき特性は何か?」を検討しようとした。 [材料と方法]ルーメンフェステル装着めん羊4頭を供試し、乾物給与量を一定とした粗濃比80:20と20:80の2水準と、稲わらとエン麦稈の2種類の粗飼料源、計4つの試験区を設定した。調査項目は、ルーメン内消化率、発酵諸現、微生物叢とその生化学的活性とした。 [結果]粗濃比の違いに関わらず、稲わらの乾物消化率はエン麦稈のそれよりも明らかに低く、これはセルロースやリグニン含有率が高かったことと一致した。しかし、稲わらを粗飼料源とした場合、ルーメン内の繊維質飼料の消化率は濃厚飼料多給条件のほうが粗飼料多給条件よりも高く、一方、エン麦稈を粗飼料源とした場合には濃厚飼料多給条件のほうが顕著に低下するのが認められた。稲わらは、燕下回数、咀嚼回数、咀嚼時間などの反すうを促進し、濃厚飼料多給におけるルーメン内pH値も5.8以上に維持されなど、エン麦稈のそれとは明らかに異なった。染色固定による直接検鏡法によって求めた微生物叢(細菌数、プロトゾア数とそれら構成割合)は2つの粗飼料間には有意な差異は認められなかったが、麦稈を粗飼料源とした場合、濃厚飼料多給によって細菌群とイソトリカ群のアデニレートエネルギーチヤージやピルベートキナーゼ活性が低下し、一方、稲わら給与の場合にはそれらが維持される傾向が認められた。
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