一般に、穀物飼料主体の飼養形態をとる肉牛肥育では、反すう胃内性状を良好に維持するためやルーメンアシドーシス、喰い止まりなどの疾病を予防するために繊維質飼料の吟味とその給与方法に多くの苦心が払われている。例えば、わが国の上質肉牛生産の象徴的存在である松坂牛や前沢牛の生産農家は、「肉牛は風土によって作られ、水田がおいしい肉を作る。」という言葉を頻繁に口にし、良質な稲わらの吟味や確保に努めている。本研究では、肉牛飼育の驚農家の確かな経験と知識に裏付けられた先の言葉の意味を深考して、「濃厚飼料多給のもとで優れた粗飼料の具備すべき特性とは何か?」、「稲わらには一般に理解されている粗飼料としての役割以上のものがあるや否や」を検討した。その結果、(1)稲わらの乾物消化率は水稲、陸稲26品種で大きく異なり、維管束細胞の多少と密接に関連すること、(2)ケイ酸質肥料を施用した稲わらはその比葉面積が拡大してルーメン内の咀嚼破砕が進みやすく(湿式ふるい分画法)、また亜鈴細胞が充実してリグニン、フェノール酸の生合成が抑制されること(成分分析、EDXA分析、CAD免疫光顕)、その結果、ルーメン微生物による付着分解が促進されること、このことは篤農家が有機物肥料の施葉を励行して良質な稲わら作りをすることと一致する。(3)稲わらはエン麦桿よりも反すうを促進し、一方では消化管内通過が早く(クロム媒染色法)、単なる粗剛な粗飼料ではなく、(4)その結果、ルーメン微生物のAEC量(ルシフェリン-ルシフェラーゼ法)や繊維分解能に示されたルーメン内硝化活力を高く維持することも明らかとなった。
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