絶食ストレスによる性腺機能抑制の脳内メカニズム

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08660342
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 束村 博子 名古屋大学, 農学部, 助手 (00212051)
• キーワード: 黄体形成ホルモン / 絶食ストレス / エストロジェン / エストロジェン受容体 / 延髄孤束核A2領域 / 視床下部室傍核 / ノルアドレナリン作働性神経

研究概要

絶食ストレスは、エストロジェン依存性に黄体形成ホルモン(LH)分泌を著しく抑制する。またこの抑制には、視床下部室傍核(PVN)に投射するノルアドレナリン(NA)作働性神経が関与することが明らかとなっている。本研究は、この抑制系における脳内メカニズムの解明を目的とし、以下の点を明らかとした。
i)卵巣除去ラットに、48時間の絶食ストレスあるいは拘束ストレスを負荷することにより、PVNおよび延髄孤束核A2領域におけるエストロジェン受容体発現が誘起される。室傍核へのエストロジェンの急性投与により、絶食ストレス負荷動物においてLH分泌が急激に抑制され、一方A2領域へのエストロジェン急性投与はLH分泌を抑制しなかったことから、PVNにおけるエストロジェンの作用機序はA2領域におけるそれとは異なることが示唆された。また、PVNへのエストロジェン急性投与は同部位でのNA放出量に影響しなかったことから、PVNにおいてエストロジェンは、NA放出を誘起するのではなく、PVNでのNA受容体の感受性をあげることにより、LH分泌への抑制作用を発現させることが示唆された。
ii)卵巣除去ラットおよびエストロジェン代償投与卵巣除去ラットに、ブドウ糖利用阻害を誘起する薬物である2-deoxyglucose(2DG)を静脈内投与すると、LH分泌の著しい抑制が認められ、エストロジェンにより2DGに対するLH分泌抑制の感受性が上昇する。2DG投与によりPVNでのNA放出量が上昇すること、さらにこの上昇をカテコールアミン合成阻害剤のPVNへの局所投与により阻害することで、LH分泌の抑制が解除されることから、ブドウ糖利用低下はPVNへ投射するNA作働性神経の活性化を介してLH分泌を抑制することが明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] Nagatani,Shoji: "Reduction of glucose availability suppresses pulsatile LH release in female and male rats." Endocrinology. 137. 1166-1170 (1996)
• [文献書誌] Murahashi,Kumiko: "Suppression of LH pulses by restriction of glucose availability is mediated by sensors in the brain stem." Endocrinology. 137. 1171-1176 (1996)
• [文献書誌] :Nagatani,Shoji: "A rapid suppressive effect of estrogen in the paraventricular nucleus on pulsatile LH release in fasting-ovariectomized rats." Journal of Neuroendocrinology. 8. 267-273 (1996)
• [文献書誌] Estacio,M.A.C.: "Effect of fasting and immobilization stress on estrogen receptor immunoreactivity in the brain in ovariectomized female rats." Brain Research. 717. 55-61 (1996)
• [文献書誌] 束村博子: "ストレスと生殖をめぐる神経内分泌機構" ヒューマンサイエンス. 8. 89-97 (1996)
• [文献書誌] Maeda,Kei-ichiro: "Novel estrogen feedback sites associated with stress-induced suppression of luteinizing hormone secretion in female rats." Celluler and Molecular Neurobiology. 16. 311-324 (1996)
• [文献書誌] Kawakami,Shin-ichi: "Evidence for terminal regulation of GnRH release by excitatory amino acids in the median eminence in female rats:A dual immunoelectronmicroscopical study." Endocrinology. in press. (1998)
• [文献書誌] Maeda,Kei-ichiro: "Neural Control of Reproduction.Physiology and Behavior" Japan Scientific Society Press/CRC Press, 254 (1997)
• [文献書誌] 束村博子: "脳と生殖-GnRH神経系の進化と適応" 学会出版センター, 233 (1998)