鶏精子の運動調節にプロテインホスファターゼ・タイプ1(PP1)が関与しているか否かを明確にするため、除膜精子の運動性並びにタンパク質のリン酸化に及ぼす影響を検討した。 30°Cで活発に運動している精子にPP1を添加すると、運動性は濃度依存的に低下し、10unit/ml以上の濃度域では完全に抑制された。但しその際、0.1mM以上のMn^<2+>を必要とした。また、5mMEGTA添加によって溶液中のCa^<2+>を除去すると、運動精子の割合は急激に減少し、その後5mMCa^<2+>を加えることによって増加した。しかし、PP1とMn^<2+>の存在下では、Ca^<2+>添加による運動回復効果は認められなかった。一方、40°Cで不動化を起こしている精子にPP阻害剤であるカリクリンA(100nM)を加えると、運動性は約80%間で促進された。ところがその後、過剰のPP1とMn^<2+>を添加すると運動は完全に抑制され、この抑制作用は1〜1000μMのcAMPを加えても回復しなかった。精子タンパク質のリン酸化反応に及ぼすPP1+Mn^<2+>添加の影響を検討したところ、30°Cにおいて、無添加の対照区と比較して、PP1+Mn^<2+>を加えると、分子量115kDa、78kDa、51kDa及び20kDa付近のタンパク質が脱リン酸化を受けていた。 以上の結果から、PP1の活性化が鶏精子の運動抑制に深く関与していること、また、この酵素によって脱リン酸化を受ける標的タンパク質は、115kDa、78kDa、51kDa及び20kDaのいずれかであると示唆された。
|