鶏精子の温度による運動調節機構に、細胞内Ca^<2+>が関与しているか否かを明らかにするため、Ca^<2+>調節物質を用いて精子の運動性と細胞内Ca2+濃度に及ぼす影響を検討した。 その結果、精子の運動性は、30℃ではCa^<2+>の存否にかかわらず、75〜80%の高い値を示した。これに対して40℃では、Ca^<2+>無添加の精子は不動化を起こし、2mMCa^<2+>を添加すると75%の値まで回復した。しかし、ベラパミルを1mM添加し、その後Ca^<2+>を加えても、十分な運動回復効果は認められなかった。その際、[Ca^<2+>]_iの上昇が著しく抑制された。また、同一の精子試料を30℃と40℃で交互にインキュベーションすると、30℃では活発な運動を行っており、その後40℃に移すと、ほとんどの精子は運動を停止した。この現象は、ベラパミル添加の有無に関係なく可逆的であり、再び30℃に移すと運動の回復が観察された。一方、細胞内貯留部位(精子の場合は主にミトコンドリア)からのCa^<2+>放出を誘起すると考えられるSr^<2+>を精子に添加すると、[Ca^<2+>]_iの上昇とともに、40℃でも濃度依存的に運動促進効果が認められた。 以上の結果から、鶏精子の運動調節に細胞内Ca^<2+>が深く関与していると推察された。さらに、温度による可逆的不動化は、細胞膜を介する細胞内外のCa^<2+>移送機構より、むしろミトコンドリアにおけるCa^<2+>動員機構に依存しているものと考えられた。
|