哺乳動物では、精子を未受精卵へ注入した場合、かなり容易に精子膨化が起こる。本研究では、その膨化は精子の処理条件で速度が異なり、受精後の発育に影響を与える事を確認した。現在、顕微受精した卵子の活性化が起こらない例があり、これが精子由来の液成因子の欠如による可能性があると考えている。そこで、本年度は、ウサギ精子を処理し、精子の状態による卵子活性化の程度を示し、精子の持ち込むもので実際に受精機構が影響されるかどうかを明らかにした。精子が胚発生の開始時に果たす役割として、平成8年度で行った精子抽出液の顕微注入による卵母細胞の活性化の実験で得られた結果から、精子液性因子の関与は明らかである。そこで顕微受精時に精子がこの卵子活性化因子を持ち込むことがその後の発生を左右する可能性があることを想定し、全くこの種の因子を含まない裸化精子として分離精子頭部を顕微注入し、卵子活性化の状況を検討した。その結果、精子頭部のみの卵子活性化能力は、新鮮無処理精子を使用した場合と比べ経時的に遅れを呈することが判明した。初年度の研究成果とともに、これらの結果から、精子の卵子活性化物質は顕微受精に関与しており、正常受精をおこす最低限の雄性因子(minimal male factor)として働いていることが示唆された。卵子の発生機構はクローンの作製などと関連して、細胞周期との関係から活性化の機構を電気で刺激するアプローチが続いている。その結果、連続的な脱分極を起こすことなく活性化させる事が可能となっている。しかし、本研究では、この精子液性因子の卵子活性化能力を利用し効率に受精状態を作れる可能性が示唆されるため、今後利用価値が高いと考えている。
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