本研究は、ミトコンドリアDNAのチトクロームc オキシダーゼI(COI)及びNADHデヒドロゲナーゼI(NDI)遺伝子領域の塩基配列によって、日本産肝蛭を含めた肝蛭種間を識別することができるか否かを明らかにすることを目的とする。現在までに日本産肝蛭(三倍体個体)、ウルグアイ産F.hepatica(二倍体個体)、サンビア産およびインドネシア産F.gigantica(二倍体個体?)および韓国産肝蛭(二倍体個体)について、COI領域の474bp及びNDI領域の145bpにおける塩基配列を決定した。COI領域の474bpでは、日本産肝蛭はザンビア産F.giganticaとほぼ一致した配列を示し、これらとウルグアイ産F.hepaticaとの間には4塩基(0.8%)に違いが認められた。一方、NDI領域の145bpの配列では、F.giganticaにおいて3型(A、B、C型)の種内変異が認められた。その内の2型(A、B型)はザンビア産F.giganticaで見られ、両型間の塩基置換率は8.3%であった。C型はインドネシア産F.giganticaで認められ、A型とは5.7%の塩基置換率、4塩基欠損が見られ、B型とは塩基置換率6.4%、4塩基欠損であった。またF.giganticaのA型と日本産肝蛭とは配列が一致した。これらとウルグアイ産F.hepaticaとは1.4%の塩基置換率であった。以上の結果から、日本産肝蛭(三倍体個体)とF.giganticaは、CO1領域及びNDI領域の塩基配列の違いによってウルグアイ産F.hepaticaとは明らかに識別できると考えられた。
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