本研究では日本産肝蛭、F.hepaticaおよびF.giganticaのミトコンドリアDNAのcytochromec oxidase subunit I(COI)およびNADH dehydrogenase subunit I(NDI)遺伝子座、さらに核リボソームDNAのsecond internal transcribed spacer(ITS-2)領域の塩基配列を決定することにより、日本産肝蛭の同定の基準となり得る配列が識別できるか否かを明らかにすること、さらに日本産肝蛭の集団にDNA多型が存在するか否かを明らかにすることを目的として実施した。その結果、1.ミトコンドリアDNAの制限酵素切断パターンによる解析から、日本産肝蛭の三倍体固体集団には少なくとも2型のミトコンドリアDNA多型が存在し、両型の母方祖先種はF.hepaticaではなく、F.giganticaと考えられること、さらにはその内の1型と韓国産肝蛭(単為生殖を行う二倍体)はF.giganticaの共通祖先に由来すると考えられること、2.ミトコンドリアDNAのCOIおよびNDI遺伝子座における塩基配列の比較から、日本産肝蛭の三倍体固体はF.giganticaとほぼ一致しF.hepaticaとは異なること、3.核のリボソームDNAのITS-2領域の塩基配列から、日本産肝蛭の三倍体固体には異なる2型が認められ、1型はF.hepaticaとほぼ一致し、他型は東南アジア(インドネシア、マレーシア)産F.giganticaと一致することが明らかとなった。
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