腸管は内在性と外来性の神経系により支配されている。本研究では逆行性トレーサーであるHRPの軸索内輸送標識法により鶏の大腸を支配する外来性神経線維の起始細胞の局在を解明した。HRPを注射する手術の可否はいかにうまく麻酔をかけ、麻酔状態を手術中維持できるかにかかっている。吸入麻酔に用いるハロセンは揮発性があるのに引火性がなく、麻酔力が強く、麻酔状態の維持が容易で、麻酔からの回復も早いなどの利点がある。そこで、鶏における簡便な吸入麻酔法を確立することにした。ハロセン専用の気化器に鑑賞魚飼育用のエア-ポンプで空気を送り、出てきた混合気をT字管で2つに分け、一方を鶏の気管内に挿入し、他方を呼気の排気管にした。雄の成鶏を用い、ハロセン麻酔下で左側の腹壁を恥骨と平行に切開し、大腸を露出した。5%WGA-HRPと30%HRPの混液(5μl)を大腸中央部付近の平滑筋層内の1カ所に注入した。3日後に潅流固定して実体顕微鏡下で交感神経幹神経節、脊髄神経節、脊髄、腸神経を取り出し、50μmの凍結切片を作製し、神経節はスライドガラスに貼付けしてから、脊髄は浮遊したままTMBを用いてHRPのための酵素反応を行い、中性赤で対比染色した、約500個の標識された交感神経節後細胞が両側の第30〜33幹神経節に存在し、仙髄副交感神経節前細胞が分布する高さに一致した。約1200個の標識された知覚神経細胞は2峰性に分布した。頭側の小さな山は両側の第20〜23脊髄神経節の高さに存在し、交感神経節前細胞の尾側部が分布する高さに一致した。尾側の大きな山は両側の第29〜34脊髄神経節の高さに存在し、仙髄副交感神経節前線維に随伴する知覚神経細胞の分布する高さに一致した。これらの標識細胞は内臓神経あるいは陰部神経を通り、腸神経を経て大腸に投射していると思われる。また、腸神経大腸部の中央部と尾側部にも約2000個の標識された神経節細胞が存在した。脊髄には標識細胞が見られなかった。
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