本研究は、ウシの赤血球内寄生原虫であるTheileria sergentiの特異的赤血球レセプター抗原をウシ小型ピロプラズマ症の予防ならびに治療に応用することを目的として行われた。具体的には、赤血球レセプターのガングリオシドに対するモノクローナル抗体ならびに赤血球レセプターを組み込んだリポソームを作製した。それらを応用したウシ小型ピロプラズマ症の予防ならびに治療の可能性についての基礎的研究を行った。 1、T.sergentiの赤血球膜レセプター(シアリルI型ガングリオシド)に対するモノクローナル抗体の作製。 ウシ赤血球膜から得られたシアリルI型ガングリオシドならびにシアリルI型ガングリオシドと同じ糖鎖抗原を持つシアリルi型ガングリオシドを抗原として、モノクローナル抗体の作製を行った。その結果、シアリルI型ガングリオシドと反応性を示す抗体産生クローン(SHS-21)を得た。SHS-21抗体は、シアリルI型ガングリオシドのみならずシアリルiガングリオシドとも反応するが、SHS-21抗体を応用したウシ小型ピロプラズマ症の新たな治療法の可能性が示された。 2、シリアルI型ガングリオシドを組み込んだ殺原虫剤封入リポソームの作製。 T.sergentiの赤血球膜レセプターであるシアリルI型ガングリオシドを組み込んだリポソームに、殺原虫剤を封入できるか否かについて検討した。その結果、リポソームにシアリルI型ガングリオシドを組み込んでも、殺原虫剤をリポソームに封入できることが示された。今後、本リポソームによるウシ小型ピロプラズマ症の治療の可能性を探る予定である。 3、ガングリオシド抗原を組み込んだリポソームのワクチンとしての可能性の検討。 シアリルI型ガングリオシドを組み込んだリポソームをウシ小型ピロプラズマ症の経口ワクチンとして応用するために、経口投与可能なリポソームの脂質組成を検討し、経口投与による免疫応答を調べた。その結果、DPPC、DPPS、Chol、モル比1:1:2からなるリポソーム、DSPCとChol、モル比7:2からなるリポソーム、DSPC、DPPS、Chol、モル比7:3:2あるいは1:1:2からなるリポソームは、経口投与可能であることが示された。さらに、これらのリポソームガングリオシド抗原を組み込み経口投与した結果、誘導された抗体は、IgA型のみであり、IgMあるいはIgG型の抗体は誘導されなかった。今後、IgMあるいはIgG型の抗体を誘導できるリポソームを開発するために、リポソームの脂質組成ならびにアジュバントについて検討する予定である。
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