研究概要 |
鳥類松果体細胞には光受容器及び生体時計機構が存在し、明暗条件下では明期に低く暗期に高いメラトニン分泌リズムを示す。また、恒常条件下でも、メラトニン分泌は約24時間の周期で継続するが、このメラトニンリズムの形成は時計がどの様なシグナルを介して行っているかは不明である。そこで、恒常暗下でのメラトニン分泌がcAMP系機構を介している可能性、および光シグナルがチロシンキナーゼのリン酸化を介している可能性について検討した。 1)ヒヨコ松果体細胞を恒常暗下で培養し、メラトニン分泌が増加し始める前からH8(プロテインキナーゼAの特異的阻害剤)を6時間投与すると、投与量依存性にメラトニン上昇が抑制された。 2)恒常暗下でIBMX添加培養液で細胞を灌流し、灌流液中のcAMP濃度を測定した。その結果;恒常暗下でも明暗条件下同様のcAMPのリズムが継続していた。 3)細胞灌流においてH8を9時間のパルス投与すると、1)と同様にメラトニン上昇を抑制したが、時計の位相には影響しなかった。また、このH8は8-bromo-cAMPによるメラトニン増加を抑制した。 4)光パルスをCT16時に照射すると、およそ8時間の位相前進が認められ、CT8,10時では位相後退が認められた。そこで、CT16時に6時間の光パルスを与えるのと同時に、チロシンキナーゼ阻害薬を投与し結果、チロシンキナーゼ阻害剤ゲニステインは、光によるメラトニンの急激な分泌低下作用は阻止しなかったが、位相変位を濃度依存的に阻止した。ラベンダスチンAには効果が認められなかった。 以上の結果、恒常条件下でのメラトニン分泌リズムは時計のリズムがアデニレートサイクラーゼの活性化-cAMP合成-プロテインキナーゼAの活性化のリズムを作り、この系を介して形成されていることを示唆している。光による時計同調にはチロシンキナーゼのリン酸化が関与していると推察される。
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