乳汁中には様々なホルモン、成長因子やサイトカインが含まれており、乳腺はそれらにより形態学的ならびに機能学的に変化を受けているが、それらホルモンや成長因子の働きをそれぞれ明確にすることは困難である。上皮小体ホルモン関連タンパク(PTHrP)も泌乳中の乳腺から産生され、生物活性を有する形で乳汁中に存在する。そこで本研究では泌乳期乳腺の上皮小体ホルモン関連タンパク(PTHrP)産生に及ぼす上皮成長因子(EGF)およびトランスフォーミング成長因子(TGF)-βの影響を検討した。分娩後1週間以内の乳牛より採材した乳腺組織をコラゲナーゼを用いて腺房に分散し、ラットの尾腱より抽出したコラーゲンに包埋培養した。培地にEGF、TGF-βを種々の濃度で添加し、培養上清中のPTHrP濃度をラジオイムノアッセイ法により測定するとともに、PTHrPの遺伝子発現をノーザン解析した。 EGFおよびTGF-βの刺激によりウシ乳腺培養細胞はPTHrP産生量ならびにそのmRNA発現量は濃度依存性に増大した。EGFおよびTGF-βが初乳を中心に乳汁中に存在することから、これらが泌乳期乳腺におけるPTHrP産生の調節因子である可能性が示唆された。 メイブレンカルチャーインサートによる培養をしたウシ乳腺腺房のPTHrP分泌の極性を調べたところ、基底側により多くのPTHrPが分泌されていた。乳腺上皮基底側には腺房収縮を担う筋上皮細胞があり、一方PTHrPには平滑筋弛緩機能があるとされていることから、基底側に産生されるPTHrPが乳腺腺房の収縮弛緩による乳汁排出を促進している可能性が考えられた。
|