研究概要 |
マウスの小腸や大腸の自然発生腫瘍は少ない。当研究所で維持している無菌(GF)BALB/cマウスの小腸にポリポージスが高率に発生するが、通常化(CV)したマウスでは著しくその発生率が低くなることが認められている。そこでクロロフォルム耐性菌(CRB)を含む種々の腸内細菌を定着させたノトバイオート(GB)BALB/cマウスを作製し、それらの菌の小腸ポリポージスにおよぼす影響を検討した。ポリープの発生は幽門部から200mm以内の小腸に分布していた。ポリープの病理組織学的検索で、いずれの群のものも悪性化は認められなかった。ポリープ症の発生頻度およびマウス1匹当りのポリープ数は、GF群は74%、2.8個、CV群は34%、0.8個に対し、GB3(E.co1i)群は95%、6.4個と高い値を示し、その他の単一菌投与群はGF群を中心として様々であったが、CRB群は16%、0.2個と低く、CV群並みの値を示した。これらの結果から、通常マウスから分離したCRBはマウスの小腸のポリープ症を抑制する腸内菌叢の構成員であることが示唆された。 次に、消化管に対して発癌性のあることが知られているN-methyl-N′-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)、および1,2-Dimethylhydrazine dihydrochloride(DMH)の投与による、GFBALB/cマウスの小腸ポリポーシスにおよぼす悪性化を試みた。各実験群のポリープ症の発生率は、対照群(60%)と処置群(MNNG-A;69%、MNNG-Y;92%、DMH-A;80%、DMH-Y;89%)それぞれとの間では有意な差は認められなかったが、対照群(60%)と処置群全体(82%)との間では発生率が有意(p<0.05)に増すことが認められた。また、発癌物質の種類による差をみると、対照群(60%)とMNNG投与群(79%)およびDMH投与群(84%)との間では有意な差は認められなかった。つぎに、マウス1匹当たりのポリープの発生数をみると、すべての発癌物質投与群で対照群と比べて有意ではないが高い傾向がみられた。すべての投与群において対照群に比べてポリープ症の発生率が増加したことから、このBALB/cの自然発症小腸ポリポーシスは、今回用いた発癌物質いずれによっても、その発症が促進されることが明らかにされた。 更に、CRBに含まれる各種腸内菌を分離定着させたノトバイオート(GB)BALB/cマウスを作製し、これらの菌が小腸のポリポージスにおよぼす影響を検討した。Fusiform bacteriaは、CRB構成菌のうちの最優勢菌群であるにもかかわらず、ポリープ症の抑制効果がCRBのそれには至らなかったことから、ポリープ症の抑制にさらに重要な働きをするものがCRBの中に存在する可能性が示唆された。また、SFBはBALB/cマウスのポリープ症に影響しないことが示された。また、無菌マウスの生理的正常化の指標の一つである盲腸重量比がポリープの発生頻度と同様な傾向を示したことは、これらの菌(群)による無菌BALB/cマウスの盲腸の生理的正常化とポリープの発生が関連することが示唆された。
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