本研究はパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)による染色体DNA解析法、リボタイピング、ランダムプライムドPCR法(RAPD)が動物由来ブドウ球菌の生態・疫学研究並びに本菌の菌種同定に適用できるかについて検討したものである。1.人・牛・鶏・豚・馬由来S.aureusの比較解析では、PFGEパターンが由来動物種によって特徴がみられ、PFGEは由来動物種の識別に応用できることを明らかにした。2.英国・ベルギー・アルゼンチン・ブルガリア・日本で分離した鶏由来S.aureusのPFEG比較では、10本のフラグメントが全ての株に共通しており、これらのフラグメントは鶏由来株の菌株同定の遺伝子マーカーとして利用できることを示した。3.健康鶏の鼻腔と皮膚に定着しているS.aureusは同一の菌であることを、PFGEを用いて証明した。4.北海道日高地方で発生した馬MRSA感染症は同じ遺伝子型のMRSAが原因であったことを、PFGEで立証した。また馬MRSAのPFGEパターンは人MRSAのそれとは異なっていた。5.牛乳房炎由来S.aureusのPFGE解析では、多様な遺伝子型をもつ菌が牛乳房炎に関与していることを示唆した。6.鶏ブドウ球菌症から分離したS.aureusのPFGE解析では、多様な菌型が鶏ブドウ球菌症に関与していることを示唆した。7.PFGE、リボタイピング、RAPD法を用いた動物由来S.intermediusの比較解析では、そのPFGEパターン、リボタイプ、RAPDパターンが由来動物種(ミンク、狐、鳩、犬)によって特徴がみられ、本菌には生態型が存在することを示唆した。またPFGEとリボタイピングはS.intermediusとS.aureusとの鑑別同定に応用できること、さらにPFGEはリボタイプ、ファージ型をさらに細分化するのに有用な方法であることを明らかにした。以上のように、3つの分子遺伝学的解析法が動物由来ブドウ球菌の生態・疫学研究に適用できること、また菌種同定に応用できることを明らかにした。
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