研究課題/領域番号 |
08660394
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研究機関 | 国立衛生試験所 |
研究代表者 |
三森 国敏 国立衛生試験所, 病理部, 室長 (10239296)
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研究分担者 |
小野寺 博志 国立衛生試験所, 病理部, 主任研究官 (60177285)
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キーワード | ラット / 甲状腺増殖性病変 / K-ras遺伝子 / P53癌抑制遺伝子 / heat shock protein / microsatellite instability |
研究概要 |
ラット甲状腺濾胞上皮由来の増殖性病変の進展と遺伝子変異ならびに遺伝子不安定性の関与を明らかにするため、雄F344ラットにN-bis(2-hydroxypropyl)nitrosamine(DHPN)2800mg/kgを単回皮下投与し、1週後より0.1%sulfadimethoxine(SM)を飲水投与した。SM投与1、4、8、12、16、20週後、および16週間SM投与後4週間休薬したラットを経時的に殺処分し、甲状腺を分子病理学的に検索した。濾胞上皮の増殖性病変はSM投与4週時からみられ、8週以後腺腫や癌が発生した。これらの増殖性病変では、免疫組織化学的にP53とheat shock protein(HSP)70の過剰発現がみられたが、PCR-SSCP法ではp53のexon5-9に遺伝子変異は認められなかった。Dot blot hybridizationによるK-ras遺伝子の解析では、SM投与12週以後に剖検した33例中10例(30%)の腫瘍に遺伝子変異(codon12に9例とcodon13に2例)が認められた。この内、codon12に変異がみられた5例についてのdirect DNA sequenceでは、K-ras codon12のGGTからGATへの変異が確認された。一方、4と8週時にみられた過形成や腺腫にはこのような変異は観察されなかった。H-rasについても、K-rasと同様に検査したが、exon1-2のいずれの部位にも変異は認められなかった。ラット染色体上の22個のマーカーについてDNA修復異常を示唆するMicrosatellite Instabilityを検索したが、遺伝子不安定性を示唆する所見は得られなかった。 以上の成績から、今回の実験条件下では甲状腺濾胞上皮の増殖性病変の進展にK-ras遺伝子の点突然変異の関与が示唆された。しかし、過形成や腺腫のみがみられた例ではK-rasの変異がみられなかったことから、K-ras遺伝子の変異は甲状腺濾胞上皮腫瘍の進展における比較的後期に関与していることが示唆された。免疫組織化学的に過剰発現したP53は、PCR-SSCP法でexon5-9に変異がみられなかったことから、野生型P53がHSP70は分子結合したものと考えられた。
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