研究概要 |
有性繁殖と無性(栄養)繁殖を併用する個体からなる植物集団について、遺伝子頻度の分散に関する集団の有効な大きさ(N_<ev>)を次式のように導いた. N_<ev>=(2N)/({(1-α)+(1+α)・V_k/k}・(1-δ)+2(1+δ)・V_c/c・δ) 但し,N=集団を構成する個体数,α=ハ-ディ・ワインベルグ比率からのずれ[自殖率がβの個体からなる平衡集団では,α=β/(2-β)],δ=各個体の無性繁殖率,kおよびV_k=各個体が次代に残す配偶子数の平均値と分散,cおよびV_c=各個体が次代に残す無性繁殖個体数の平均値と分散である.上記の式から,無性繁殖を併用することが有性繁殖だけを行なう場合に比べて同一Nの下でN_<ev>を増大させる方向に働くか減少させる方向に働くかは,V_c/cが(V_k/k+1-β)/2よりも小さいか大きいかによって決まることがわかる.各個体が次代に残す有性繁殖個体の数と無性繁殖個体の数がともに無作為に決まる(ポアソン分布に従う)場合は,V_k/k=1+β,V_c/c=1であるから,V_c/c=(V_k/k+1-β)/2となり,このとき,N_<ev>は無性繁殖の有無に関係なくN(1-β/2)となる.この値は、有性繁殖だけを行なう集団に対して従来導かれていたものと等しい. 近交係数(f_t)と近縁係数(θ_t)の世代間推移式, (numerical formula) を用い,集団成立後平衡状態に達する間の,近交に関する集団の有効な大きさ(N_<ef>)と近縁に関する有効な大きさ(N_<eθ>)の世代推移を求めた.その結果,N_<ef>,N_<eθ>ともに同一の値に収束するが,βが小さい場合は,前者が世代の進行とともに減少するのに対し後者は逆に増加し、βが大きい場合は,その逆であることが認められた.また,栄養繁殖,自殖ともに,収束値に達するまでの世代を遅らせるように作用するが,この遅延効果は特に栄養繁殖の場合に著しいことがわかった.
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