組み換えDNAの導入による標識筋蛋白質の強制発現および標識筋蛋白質の細胞内微量注入により、筋蛋白質アイソフォームの動態、選別、相互作用、代謝回転の態様などをとらえ、筋原線維の形成および維持の分子機構を解析した。その結果、ミオシンアルカリ軽鎖(LC)、トロポニンI(TnI)アクチンについて以下のことが明らかになった。 心筋の筋原線維に対するLCの組み込まれやすさは、非筋型<遅筋型<遅筋・心室筋型<速筋型の順に上昇し、また線維芽細胞のストレスファイバーに対しては、非筋型<遅筋・心室筋型<遅筋型<速筋型の順に上昇する。またこのようなアイソフォームの選別は、LCの第2EF-handにおけるアミノ酸の違いに基づくものである。筋原線維の太いフィラメントへのLCの組み込み、あるいはその部位でのLCの置換は、H帯寄りの部分よりA帯の末端部で起こりやすい。 TnIについては、速筋型は心筋および骨格筋の筋原線維に取り込まれるが、心筋型は心筋の筋原線維にのみ取り込まれ、骨格筋の筋原線維には取り込まれない。またこのような違いはTnIのN末側半分におけるアミノ酸の違いによるものである。 筋原線維におけるアクチンの代謝回転は、横紋のある部分では横紋のない部分よりも遅く、前者は安定した構造であると考えられた。また筋型アクチンの方が非筋型アクチンよりも筋原線維に取り込まれやすい。線維芽細胞のストレスファイバーにおいては、横紋のない筋原線維よりもアクチン分子の代謝回転が速く、両者は形態や構成分子は似ているが、その性質は全く異なるものであると考えられた。
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