研究概要 |
哺乳類の受精に関与する物質の研究はマウスを中心に進行し、卵の透明帯構成糖タンパク質ZP3が同種精子の認識、付着、先体反応(細胞膜と外先体膜の融合)誘発に重要なことがわかっている。精子のZP3受容体として数種の物質が候補にあげられているが、ZP3との特異的親和性が単離物質で確定しているのは56kDaのタンパク質SP56のみである。マウス精子はまず頭部で卵の透明帯に付着することからZP3受容体は精子頭部の細胞膜表面に局在すると予想される。そこで先ず我々の開発した免疫金コロイド標識-表面レプリカ法(Suzuki-Toyota et al,1995)によりSP56がZP3受容体としての条件を満たしているか否かを細胞化学的に検討した。この方法では固定細胞を一次免疫反応後、金粒子標識二次抗体でラベルし、臨界点乾燥後、白金-炭素蒸着で表面レプリカ膜を作成する。金粒子は細胞を漂白剤で溶解後もレプリカ膜にトラップされて抗原の位置に留まり、細胞の全景の中での局在を示しうる。SP56に対するモノクローナル抗体7C5を用いて受精能獲得精子を観察した結果SP56は先体部の辺縁を被う細胞膜表面に三ケ月状に分布することが明かになった。次に単離したZP3を金コロイド標識し、ZP3受容体と反応させた後、同様に表面レプリカ法で観察したところ、sp56の局在と一致した。これらの観察結果はsp56が、ZP3受容体としての条件を満たしていることを示している。
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