二年にわたり、体節の分化と中軸構造の関係を受容型チロシンキナーゼ(Cek8)の発現をもとに検討してきた。研究を始めるに当たって、発生に於けるCek8の機能が十分に解明されていなかったので、胚子全体の発現パターンを分類することでその機能を類推した。その結果、Cek8の発現は1)組織・器官の分化。2)上皮の再構築。3)体前後軸、あるいは背腹軸に沿った空間的位置情報に関連していると思われる発現パターンを示した。また体節におけるCek8の発現は、体節が椎板、筋板、皮板の分化を進行中の時期に一致していることも明らかにできた。そこで実験的に中軸と体節の関係を変え、体節細胞のCek8の発現が神経管・脊索から分化に関する情報を受けるためのものなのか、分化する体節細胞間での情報交換に使っているものなのか、実験発生学的な検討を進めた。実験は体節と、神経管・脊索との関係を変化させるための切開実験と、体節の前後軸と中軸の前後軸を逆転させるための自家移植の都合4種類行なった。その結果、全ての実験において、Cek8の発現パターンに変化は認められなかった。このことは、体節が中軸からの情報を受け取っていることを否定するものではない。なぜなら中軸から切り離された体節は、Cek8を発現している間に細胞死を起こし、消失してしまうことがわかっている。中軸から切り離されたことで、生存のためのリガンドを受け取ることができなかった可能性も考えられる。また本研究から体節におけるCek8の発現は周囲環境の支配を受けてコントロールされているのでなく一個の体節を作る細胞集団の中でコントロールされていることがわかった。体節の構造を機械的に乱してもその後の発生に全く異常を生じないのは、外界からの情報によりその位置を定めていると思われるのであるが、体節のこれほどまでに安定した環境がどのように造られるのか更なる検討が必要である。
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