細胞内分泌装置の中心的役割を担うとされるゴルジ装置の立体構造を明らかにすることを試みた。そのために3つのレクチンを用いてマウス十二指腸腺細胞のゴルジ装置のもつ糖鎖を蛍光多重染色し、共焦点レーザー走査顕微鏡で観察することにより三次元構造解析を行った。レクチンとしてゴルジ装置のシス側の糖鎖を認識するダイズレクチン(SBA)、中間層から顆粒にかけて存在する糖鎖を認識するバンデリアマメレクチン(GSA II)、トランス側から顆粒にかけて存在する糖鎖を認識するハリエニシダレクチン(UEA I)を用いることにより、ゴルジ装置を構成する主な層板の位置関係を把握したうえで三次元構造解析を行った。その結果、ゴルジ装置は核上部にドームをかぶせたような形で存在すること、そしてSBAで染色されるシス側層板がドーム状のネットワーク構造を形成して細胞質とゴルジ装置との境界をつくり、そのネットワークを裏打ちする位置にGSA IIで染色される中間層が配置し、さらにその内側にGSA IIとUEA Iとで染色されるトランス側の層板がタイル状に配列していることが明らかになった。従って、分泌顆粒はゴルジ層板のつくるドームの内側に向かって形成され、ドームの網目を通って細胞頂部に運ばれることも明らかとなった。以上のことから、これまでの電子顕微鏡を用いた観察から層板の重なりとして把握されていたゴルジ装置が、実際には「ゴルジ空間」ともいうべき細胞内小器官であることが明らかとなり、さらにここで得られた結果は、消化管粘膜に存在する杯細胞などで示されているゴルジ装置の立体構造とは全く逆の三次元配置であり、今後その意義や機構について研究を進めていく予定である。
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