われわれは、最近、ヒト肝の類洞周囲星細胞において神経細胞接着分子NCAMが恒常的に発現していることを見い出した。今回の研究では星細胞活性化とNCAM発現の関連性を明らかにする目的で、ヒトならびにラット肝を免疫組織化学的の検索した。 無処置ラット肝では星細胞はNCAM陰性であった。それに対し、四塩化炭素による障害肝では、αSMAの発現とともに星細胞のNCAM発現が、とくに線維増生部位に顕著に観察された。ただし、αSMAとは異なり、NCAMは血管平滑筋や筋線維芽細胞には発現しなかった(Nakatani et al.1997)。 また、Propyonibacterium acnes投与によって肝に肉芽腫を形成させたところ、肉芽腫周囲の星細胞が活性化すると同時に、肉芽腫内にplatelet-derived growth factorやtransforming growth factor-βの存在が免疫組織学的に示されたことから、これらマクロファージに由来するサイトカインが星細胞の活性化に関与すると考えられ(Tsuji et al.1997)、現在これらサイトカインによるNCAM発現誘導作用を検討中である。さらに、培養によって星細胞が活性化し、細胞内アクチンが増加し、エンドセリンなどに反応して収縮する(Kawada et al.1996)が、今後培養星細胞を用いてNCAM発現調節を検討していく予定である。 さらに、ヒト線維肝の生検材料を検索したところ、ラット肝同様、線維の出現に並行して、星細胞によるNCAM発現の増強が観察された(Nakatani et al.投稿準備中)。 今回の研究結果はNCAMが星細胞活性化の新しい指標となりうることを明らかにしたもので、肝病態における星細胞の役割の解析のための有用な手法を提供するものと考えられる。
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