昨年度はラット耳下腺腺房細胞ゴルジ装置の形態と機能の関連について光学顕微鏡レベルの免疫細胞化学的手法を用いて解析し、以下の所見を得た。 腺房細胞ゴルジ装置の層板構造はBrefeldin A(BFA)やオカダ酸の処理により崩壊する。そこで小胞体-ゴルジ間及びゴルジ内の小胞輸送に関与するβ-COP、およびゴルジ内在蛋白であるマンノシダーゼII(Man II)や58K蛋白について、ゴルジ層板の変化に伴う分布動態を免疫二重染色、レーザー顕微鏡により検討した。その結果BFA処理ではβ-COPおよびMan IIが速やかに細胞内に拡散するのに対し、オカダ酸処理では両者がゴルジ領域に集中することが判明した。 今年度はこの系をさらに膜系レベルで精査すべく、凍結超薄切片法による解析を試みた。包埋前染色法や親水性樹脂包埋法では得られない反応の局在性や膜系の良好な保存のもとに非常に明瞭に反応を検出することができた。BFA処理ではβ-COPおよび58Kの反応がゴルジ膜の集塊上では弱くなり、粗面小胞体の領域に著しく拡散していた。一方オカダ酸処理のものでは両者の反応は拡散することなく、ゴルジ集塊に集中していた。また集塊内の膜系には反応陽性の小胞と陰性の小胞が混在することが判明した。 以上よりゴルジ層板崩壊のメカニズムはBFAとオカダ酸では異なり、BFA処理のの場合はβ-COPの膜への結合を阻害する結果小胞輸送が停止し、ゴルジ蛋白の拡散に伴って層板構造が崩壊するのに対し、オカダ酸では輸送小胞がゴルジ膜に融合することが阻害されるため、層板が維持されなくなると考察した。ゴルジ層板という複雑精緻な構造が、いかにして成立しているかという問題に対し、逆に層板を崩壊させることにより有力な解答の1つを得た。成果を解剖学会および日米合同組織細胞化学会で発表する。
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