平成8年度 ラット耳下腺腺房細胞ゴルジ装置の形態と機能の関連について、様々な手段によりゴルジ装置の層板構造を変形させ、ゴルジ装置を構成する要素に分解することを行ない、ゴルジ関連の物質の局在の変化を検討し、以下の知見を得た。 層板構造はBrefeldin A(BFA)やオカダ酸により崩壊する。この現象は小胞輸送の変化により誘発されると考えられている。そこで小胞輸送に関与するβ-COP、およびゴルジ内在蛋白であるマンノシダーゼII(ManII)、58Kについて、ゴルジ層板の変化に伴う分布動態を光顕レベルの免疫二重染色により検討した。その結果BFA処理ではβ-COPおよびManIIが速やかに細胞内に拡散するのに対し、オカダ酸処理では両者がゴルジ領域に集中することが判明した。 平成9年度 上の系をさらに膜系レベルで精査すべく、凍結超薄切片法による解析を試みた。包埋前染色法や親水性樹脂包埋法では得られない反応の局在性や膜系の良好な保存のもとに非常に明瞭に反応を検出することができた。BFA処理ではβ-COPおよび58Kの反応がゴルジ膜の集塊上では弱くなり、粗面小胞体の領域に著しく拡散していた。一方オカダ酸処理のものでは両者の反応は拡散することなくゴルジ集塊に集中していた。また集塊内の膜系には反応陽性の小胞と陰性の小胞が混在することが判明した。 以上よりゴルジ層板崩壊のメカニズムはBFAとオカダ酸では異なり、BFA処理のの場合はβ-COPの膜への結合を阻害する結果小胞輸送が停止し、ゴルジ蛋白の拡散に伴って層板構造が崩壊するのに対し、オカダ酸では輸送小胞がゴルジ膜に融合することが阻害されるため、層板が維持されなくなると考察した。ゴルジ層板という複雑精緻な構造が、いかにして成立しているかという問題に対し、逆に層板を崩壊させることにより有力な解答の1つを得た。
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