鼻プラコード上皮に由来するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)含有細胞は、嗅神経に沿って移動して前脳に侵入し、下垂体前葉のゴナドトロピンの分泌調節の最終共通路になる。プロテオグリカンの1つを認識するモノクローン抗体を用いた免疫組織化学の結果、鶏胚の移動中のGnRH細胞、嗅上皮細胞と嗅神経線維の細胞膜に沿う細胞外にこのプロテオグリカンが限局していたので、このプロテオグリカンの細胞外局在が形態学的に実証され、このプロテオグリカンはcell-surface associated extracellular matrix分子で、GnRH細胞の移動にこのプロテオグリカンが関与すると考えられた。用いたプロテオグリカン抗体はラット脳のコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの1つを認識し、その蛋白部分はリン酸化蛋白質脱リン酸化酵素の細胞外ドメインに相同であった。したがって、鶏胚のGnRH細胞外のプロテオグリカンはニワトリ型脱リン酸化酵素のcell-surface associated型の細胞外バリアントである。このプロテオグリカン分子が結合する細胞膜貫通蛋白の1つが神経細胞接着蛋白であり、鶏胚におけるその接着蛋白は移動するGnRH細胞と移動経路である嗅神経線維の細胞膜に局在している。したがって、このプロテオグリカンは細胞外シグナル分子で、GnRH細胞の細胞膜の接着蛋白がプロテオグリカン受容体であり、両者が細胞外から細胞内へのシグナル伝達の経路としてはたらき、プロテオグリカンが受容体に結合することがGnRH細胞の移動調節の一翼を担うと考えられた。このプロテオグリカンは、幼若神経細胞が移動して大脳皮質が形成される過程においても何らかの役割を果たすと考えられた。特に移動中の大脳の神経細胞においてこのプロテオグリカンの存在量が変化していくことが移動の機構の1つの要因である。一方、このプロテオグリカンのコア蛋白質とは異なるコア蛋白質にコンドロイチン硫酸が結合しているもう1つの神経特異プロテオグリカンは、中枢神経系にあってシナプス結合の維持と安定化に関与することが示唆された。
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