私は、ヒト遺伝子ライブラリーから第2染色体のHOX-Dクラスターに存在するホメオボックス遺伝子HOXD3をクローニングし、その構造を決定した。HOXD3遺伝子を発現ベクターに連結した組み換えDNAを作成し、これをヒト赤芽球系白血病細胞HELに遺伝子導入し、ネオマイシンで安定に形質転換した細胞クローンを選択した。その結果、HOXD3を過剰に発現しているクローン(センスクローン)と、HOXD3を発現していないクローン(アンチセンスクローン)が得られた。これらのクローンの間では、細胞の増殖及びヘモグロビン含量に変化はなかったが、センスクローンでは細部外基質フィブロネクチンに対する接着性が有意に上昇していた。ノザン法を用いてフィブロネクチンに対するレセプター分子の発現を調べたところ、センスクローンではインテグリンβ3の発現が上昇しており、インテグリンαIIb及びβ1の発現に変化はなかった。また、モノクローナル抗体を用いた解析から、センスクローン細胞表面のGPαIIbIIIa(インテグリンαIIbβ3)の発現に顕著な増大が認められた。アンチセンスクローンでは、細胞と細胞の接着に関与するR-カドヘリン分子の転写レベルが上昇しているのが観察された。以上の結果より、HOXD3タンパクは、ヒト赤芽球白血病細胞HELにおいて、インテグリンβ3の発現を促進し、R-カドヘリンの発現を抑制する作用のあることが明らかとなった。更に、発生過程にあるマウス胚においてHOXD3の細胞接着因子発現に対する制御機構が存在することを証明するために、ヒトHOXD3がマウスの神経冠細胞で特異的に発現するようなトランスジェニックマウスを作成し、神経冠細胞の分化と接着性の関係を解析した。
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