本研究の目的は、造血微小環境の主要な構成要素であるストローマ細胞の特異的機能を解明し、試験管内における造血現象の再構築(人工骨髄構築)の可能性を検討することにある。このため平成8年度は、試験管内で安定して継代培養可能なストローマ細胞株の樹立を試み、その機能について造血因子産生能について検討した。平成9年度はこのストローマ細胞株を用いて、抗CD34免疫磁気ビーズによって純化した骨髄由来造血幹細胞(CD34陽性細胞)との試験管内共培養システムを開発し、本培養系の造血現象再現モデルとしての有用性について検討した。(以下平成9年度実績について記載) 1.ストローマ細胞を用いた共培養システム(長期骨髄細胞培養法;人工骨髄)の開発 獲得した種々のストローマ細胞株をそれぞれについてCD34陽性細胞との共培養実験を行った結果、幹細胞の増殖、分化を約2カ月にわたり支持することの可能な細胞株HAS303を選択し、その生物学的特性について検討を行った結果、ストローマ細胞が複数の造血因子産生を介して機能していることが確認された。さらに本培養システムを用いたCD34陽性細胞の培養により、最終的に約100倍以上に幹細胞数の増加が確認され、今後造血幹細胞の増幅への応用の可能性が示唆された。 2.造血現象解析における共培養システムの応用 共培養システムを応用した実験により、本来神経伝達物質として検出されたsubstance Pが、ストローマ細胞を介して造血コントロールにも関与していることが初めて明らかとなった。さらに従来その作用機序が不明であった薬剤起因性顆粒球減少症において、ストローマ細胞の造血因子産生における転写レベルでの抑制作用により惹起されたアンバランスが異常造血状態を引き起こすことが明らかとなり、今後本培養システムの応用がより広がっていくものと考えられた。
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