本研究の目的は、各種ラジカルの膵β細胞におけるインスリン放出への関与を明らかにすることである。この目標のために、一酸化炭素、活性酸素ラジカル、ビタミンEのβ細胞の顆粒に対する効果を調べた。これらのラジカルはいずれもβ細胞の脱顆粒を引き起こすことがわかった。また、ランゲルハンス島を含む膵組織切片をMCLAを含む溶液中に置き、その発光をフォトンカウンティングカメラによって捉えた。グルコース刺激をすると、組織全体の発光量が増大し、その増加量はランゲルハンス島を中心とした領域で最も大きかった。これによって、グルコース濃度の上昇は膵組織全体の活性酸素ラジカルの発生に結びつくことが証明された。しかし、その発生はランゲルハンス島に限局せず外分泌組織の領域にも広がることも分かった。活性酸素ラジカルはβ細胞の脱顆粒を引き起こす力があるが、血中グルコースの作用はβ細胞のみに限局せず、外分泌組織中の血管内皮等に働いて、活性酸素ラジカルを発生させ、それによってインスリン放出が促進される経路が存在することが考えられた。αトコフェロールはβ細胞の脱顆粒を誘発した。この作用は溶液中に加えたウシ血清アルブミン(BSA)の種類によって大きく変化した。 ラジカルが単に細胞破壊因子としてあるだけでなく、生理活性を持つ信号分子としての意義を持つ可能性があること、また、β細胞がラジカルに対する特異な感受性を持つこと、さらに、通常、ラジカル消去能をもつと考えられている化学物質がβ細胞に対してはラジカル種として作用することが明らかになった。
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