寝たきり老人の脳循環動態を調べる目的で以下の2つの実験を行った。1.近赤外線を利用して脳組織の酸素飽和度ならびにヘモグロビン量を測定し、体位変換時におけるヒト脳血流動態態パラメータの変化を観察する。2.ラット、ウサギを用いた動物実験において、脳血流量および頭蓋内圧を同時測定し、HDT(水平より頭部を45度下げる)負荷した際の変化を経時的に記録する。脳血流量はレーザードップラー血流計により、頭蓋内圧は大槽またはクモ膜下腔にカテーテルを挿入して測定した。また、比較のため眼血流量と眼内圧の測定を行った。 以上の実験より以下のことが判明した。 1)臥位(ヒトの場合)あるいはHDT位(ヒトでは-6度、動物では-45度)では脳血流は一過性に増加するが、その後時間経過とともに徐々に減少する。 2)脳血流減少の原因として頭蓋内圧の上昇が関与すると考えられる。この圧上昇は、初期(HDT負荷8時間まで)の原因として静脈内への血液の貯留ならびに脊髄から頭蓋内への脳脊髄液の移動が関与している。臥位あるいはHDT位が更に長期に及ぶと脳浮腫が発生し、頭蓋内圧の上昇がより著しくなると推察されるが、この点については将来の検討が待たれる。 3)眼循環においても同様の現象すなわち、一過性の血流増加と眼内圧の上昇が認められ、HDTは頭蓋内外において定性的には類似の効果を及ぼすことが判明した。 以上の事実より、寝たきり老人の場合、経過が非常に長く、また老齢であることを考慮すると、「寝たきり状態」は慢性的な脳血流減少、頭蓋内圧上昇、脳浮腫発生などを誘起し脳機能低下の一因となることが憂慮される。
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