冠血管由来生理活性物質による再灌流障害誘発に関する研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 08670061
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 順天堂大学
• 研究代表者: 岡田 隆夫 順天堂大学, 医学部, 講師 (00146763)
• 研究分担者: 渡邉 マキノ 順天堂大学, 医学部, 助手 (00255655) ; 大地 陸男 順天堂大学, 医学部, 教授 (10049025)
• キーワード: 再灌流障害 / 一酸化窒素 / プロスタサイクリン / ロイコトリエン / スーパーオキシド / HDL / ニトログリセリン

研究概要

平成8年度の研究により、冠血管由来生理活性物質が心臓の再灌流障害や様々な病態に及ぼす影響、さらに生理活性物質間の相互作用が次々と明らかになりつつある。
ラット心臓からはともに血管拡張作用を有する一酸化窒素(NO)とプロスタサイクリン(PGI_2)が遊離されている。NO産生を合成酵素阻害剤(NLA)により抑制するとPGI_2遊離も減少、一方PGI_2産生をインドメタシンにより抑制してもNO遊離は影響を受けないことから、NOがPGI_2の遊離量を調節していると考えられた。ところが低酸素灌流の後再酸素化を行った時点では両者の関係が逆転し、PGI_2がNOの遊離量を調節するようになる。この両者はともに心筋収縮機能の回復に促進的に働くが、再酸素化時のような病的状態においてはPGI_2の方がより重要であることが明らかとなった。一方、再酸素化に際して発生し、心筋障害に重要な役割を果たすと考えられているスーパーオキシド(O_2^-)も冠血管由来生理活性物質を介して独特な影響を与える。NO供与体(ニトログリセリン)は通常では強い血管拡張作用を示すが、O_2^-作用後は血管収縮作用を示すようになる。この原因はニトログリセリンがPGF_<2α>,TXA_2などの血管収縮性プロスタノイドの産生を刺激するためであることを明らかにした。
さらに、血漿中に常時存在するリポ蛋白も内皮由来生理活性物質を介して血管の収縮状態に影響を与えることが判明した。動脈硬化の進展に対して抑制的に働くHDLはアラキドン酸代謝に影響し、血管拡張性のプロスタグランディンと血管収縮性のロイコトリエンの両者の遊離を促進する。この事実はロイコトリエン系が優位になった場合はHDLが冠血管の攣縮を促進する方向に作用する可能性を示唆している。

研究成果

• [文献書誌] 岡田隆夫: "一酸化窒素の功罪" 順天堂医学. 42・4(印刷中). (1996)
• [文献書誌] Sachin A.Gupte: "Superoxide and nitroglycerin stimulate release of PGF_<2α> and TxA_2 in isolated rat heart." American Journal of Physiology. 271. H2447-H2453 (1996)
• [文献書誌] Iesaki,T.: "Decrease in Ca^<2+> sensitivity as a mechanism of hydrogen peroxide-induced relaxation of rabbit aorta." Cardiovascular Research. 31. 820-825 (1996)
• [文献書誌] Ishihara,K.: "The tetravalent organic cation spermine causes the gating of the IRK1 channel in murine fibroblast cells." J.Physiol. (Lond.). 491. 367-381 (1996)
• [文献書誌] 大地陸男: "心筋の活動電位、ペースメーカー電位およびQT延長のイオン機序" 順天堂医学. 42(印刷中). (1996)
• [文献書誌] 大地陸男: "血管内皮細胞のCl-チャネル…その電気的性質と細胞機能における役割…" 血管と内皮. 6. 286-293 (1996)
• [文献書誌] Ochi,R.: "Molecular and Cellular Mechanisms of Cardiovascular Regulation" Endoh,M.et al. (Eds) Springer-Verlag, 243-254 (1996)
• [文献書誌] 大地陸男: "イオンチャネル電気信号を作る分子" 曽我部正博編 共立出版, 162-175 (1997)