心筋の発生張力は筋の初期長により著しく影響されることが知られている。そのメカニズムの一つとしてクロスブリッジがアクチンに結合すると、それがCaイオンに対するトロポニンCの親和性をまして、より収縮が増強するというメカニズムが働いていることが指摘されている。この情報伝達メカニズムを生筋とスキンド標本を用いて解明することを目的とした。生筋をリアノジン処理して強縮を起こさせ、pCa-張力関係をL_<max>と84%L_<max>で測定しイソプロテノール(ISO)投与前後で比べた。ISO存在下ではpCa-張力関係は右方移動し、筋長変化によりおこるpCa-張力関係の移動度が大きくなった。また、右心室からβ受容体遮断薬存在下に心臓を摘出し、肉柱をトリトン処理してスキンド標本を作成し、50%グリセリン弛緩液中に保存した。この標本を用いてpCa-張力関係を筋節長23μmと1.9μmで測定し、A-キナーゼ作用前後で比較した。燐酸化前のpCa_<50>は、筋節長が2.3μmで5.87、1.9μmで5.72であった。燐酸化後のpCa_<50>は筋節長2.3μmで5.717、1.9μmで5.62であった。筋長変化によるpCa_<50>の変化分(△pCa_<50>)は燐酸化前が0.148、燐酸化後は0.1であった。また、燐酸化抑制剤存在下では、△pCa_<50>は0.1であった。この結果は、AキナーゼによるTn-IまたはC-蛋白の燐酸化は筋長変化による生じる発生張力の変化を減弱させることを示唆している。生筋では強縮という持続的収縮を起こさせたので、細胞内イオン環境が異なったため、スキンド標本の結果と筋長変化の効果が異なったものと考えられた。今後この点を明らかにする必要があるが、Tn-IとC-蛋白がクロスブリッジからTn-Cへの情報伝達系の一部を担っていると考えられた。
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