研究概要 |
培養マウス乳腺分泌上皮細胞を機械的に刺激すると、液性因子(ATP,UTP,UDP)が放出されそれが周りの細胞のP_<2U>型プリン受容体を活性化することによるCa^<2+>波が観測される。この機械的刺激によって誘発されるCa^<2+>波は、生体内では腺胞を取り囲む筋上皮細胞の収縮がトリガーとなって起こると考えられる。それを証明するため、筋上皮細胞を含んだ培養乳腺細胞系を確立した。Ca^<2+>蛍光色素としてindo-1を負荷し共焦点顕微鏡によって蛍光像とノマルスキー像同時に観測した。オキシトシン投与によりコロニー中の筋上皮細胞がます反応し収縮がみられた。そして少し遅れて分泌上皮細胞で波のように広がるCa^<2+>上昇が数ヶ所で観測された。これが分泌上皮細胞であることは乳脂肪滴を持っているなど形態的にも推測されたが、P_<2U>受容体によってUTPに反応すること、P_2受容体の阻害剤であるスラミンがCa^<2+>波のみを抑制することによって確かめられた。すなわち筋上皮細胞の収縮が分泌上皮細胞への機械的刺激となってCa^<2+>波が発生することが明らかにされた。 さらに興味深いことは、筋上皮細胞がATPに反応する事を見いだしたことである。単離した筋上皮細胞で調べた結果、ATPとADPは同等に反応しUTPとUDPはともに反応性は低いことから、P_Y型のプリン受容体の存在が示唆された。このことは既知のP_Y受容体の遺伝子配列を用いたRT-PCRによって確認された。また実際Ca^<2+>波が筋上皮細胞の収縮を引き起こすことは微小ガラスピペットを用いた機械的刺激によって発生させたCa^<2+>波によって筋上皮細胞が反応し収縮することによって確かめられた。 以上の結果、乳腺腺胞において分泌上皮と筋上皮細胞が機械的刺激とヌクレオチド拡散によるCa^<2+>波を介して相互作用しているという新しい細胞間情報伝達系の存在が見いだされた。そしてプリン受容体がその情報伝達系のかなめとして働いていることが明らかにされた。
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