呼吸器疾患のない健常人では、運動時の呼吸困難感の大きさ(BS)は主に換気量(V_E)に依存して増大する。しかし、V_Eが同じであってもBSには個人差があり、これには抹消化学受容器の感受性(HVR)が関与していることを最近我々は見出した(J.Physiol.499:843-848、1997)。一方、持久性運動能力(Vo_2max)の高い人は相対的にHVRは低く、また運動時のBSも低い傾向にあることが報告されているので、今回、運動時のBSに対するVo_2maxとHVRの影響を検討する目的で2つの実験を行ない、以下のような結果を得た。 1.縦断的実験・・・非運動鍛錬者(N=11)に毎回20分、毎週3回の割合で4週間、持久性運動トレーニングを行ってもらい、これに伴う自転人口ルゴメータ漸増負荷運動時のV_E-BS関係の変化とこの変化に及ぼすVo_2maxとHVRの影響を調べた。トレーニングによりVo_2maxは平均14%増加し、HVRは低下傾向を示し、V_E-BS関係は右方移動(あるV_E下でのBSは低下する方向に移動)した。重回帰分析により、V_E-BS関係の右方移動の28%はVo_2maxの増加に、16%はHVRの低下に、残り56%は未知の要因によるものであると推定された。 2.横断的実験・・・Vo_2maxが一般的に高い持久性運動鍛練者(N=9)と逆に低い瞬発製運動鍛練者(N=14)の間で漸増負荷運動時のV_E-BS関係はどう違うか、その違いはVo_2maxやHVRとどのように関連しているかを調べた。持久性鍛練者群のVo_2max(ml/分/kg)は55、瞬発性群では40と両群間に有意差が見られたが、HVRや運動時のV_E-BS関係には差異は見られなかった。縦断的実験における非運動鍛練者群の4週間トレーニング後のVo_2maxは39であったが、V_E-BS関係は上記運動鍛練者群と類似していた。 以上の結果から、運動時の呼吸困難感は運動トレーニングにより軽減されるが、この変化に対するVo_2max増加やHVR低下の関与は小さく、大半は未知の要因、多分、運動時の呼吸困難感の経験と慣れが関係していると推測された。
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