5-7週令の雄性ICRマウスをケタラール深麻酔後、300μmの脳スライス標本を作成した。さらに、小さくトリミングし、視索上核とその周辺部のみを含む切片にした。ホールセルクランプ記録法により膜電位固定下で視索上核ニューロンの興奮性シナプス後電流(EPSC)および抑制性シナプス後電流(IPSC)を記録した。膜電位依存性シナプス後電流を誘起するためにfocal刺激あるいは高KCl(21mM)を用いた。また、膜電流固定下で興奮性シナプス後電位(EPSP)を記録した。得られた電流および電位はPCMデータレコーダに収録し、オフラインによりPCLAMPで解析した。興奮性シナプス電流(EPSC)はグルタミン酸受容体拮抗剤であるキヌレン酸(1mM)により、抑制性シナプス電流(IPSC)はGABA受容体拮抗剤であるピクロトキシン(50μM)あるいはビククリン(3-10μM)により抑制された。EPSCは膜電位依存性および自発性EPSC(微小EPSCを含む)に分類された。無カルシウム潅流液下で、膜電位依存性EPSCは消失したが、自発性EPSCは影響を受けなかった。以上より、(1)視索上核ニューロンに対して興奮性神経伝達物質としては主にグルタミン酸が、また抑制性神経伝達物質としてはGABAが作用していること、(2)視索上核ニューロンの活動は自発性に放出されるグルタミン酸により絶えず調節されていること、(3)自発性グルタミン酸放出は細胞外カルシウム濃度に依存しないことが分かった。従来、シナプス入力を遮断する目的で無Ca/高Mg潅流液が用いられてきたが、本実験結果によりこの方法は必ずしも適当でないということが示唆された。視床下部の神経終末からの伝達物質の放出において、膜電位依存性および自発性放出があり、これらは異なった機構によっていることが推測される。
|