本年度は慢性低酸素状態に順応したラットにて安静時肺血流分布を検討した。Sprague-Dawley雄ラット、コントロール群(室内気吸入群)15匹、慢性低酸素群15匹の2群を対象とし、慢性低酸素群は10%酸素、90%窒素混合ガスを流入した動物用チャンバーで3週間飼育した。コントロール群は室内気吸入下で、慢性低酸素群は10%低酸素下で、非放射性マイクロスフェアを下大静脈に挿入したPE-50カテーテルより注入した。測定はそべて非麻酔下で行った。マイクロスフェアを注入後摘出肺をホルマリン固定、左右計28サンプルに分け、各サンプルのマイクロスフェアのアクティビティーをX腺蛍光分析装置にて定量、各サンプルの乾燥重量で標準化し血流分布を算出した。 コントロール群ではこれまでの筆者らの成績どおり、肺血流分布は肺門を含む中心部で高く末梢に低い中心-末梢型を示した。これに対し慢性低酸素群の肺血流分布は、コントロール群に比べ、相対的に中心部は減少し末梢は増大、その結果中心-末梢型のパターンが消失し、肺血流分布の均一化がみられた。慢性低酸素群15匹のうち8匹を対象に、低酸素を解除した状態、すなわち室内気吸入に戻した後の血流分布を検討したところ、均一化した血流分布に変化は無かった。慢性低酸素状態では肺血管系にリモデリングが生じるが、この肺血流分布の均一化はそのような形態学的変化による機能的変化を反映したものと推定され、肺血流が均一化することにより、肺胞気との接触面積を増大し、ガス交換効率を改善していることを示唆していると考察された。
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