平成8年度は、10%の慢性低酸素状態に順応したラットを対象に、安静時の肺血流分布を検討したところ、室内気吸入コントロール群と比べ肺血流分布に均一化が生じていることが判明した。すなわち、コントロール群では、血流分布は肺門を含む中心部で高く末梢に低い中心-末梢型のパターンを呈するのに対し、慢性低酸素暴露ではこの分布パターンが消失していることが示された。従って、肺血流分布が均一化することによって、肺胞気との接触面積は増大し、ガス交換効率が低酸素下で改善されていると考えられた。 平成9年度は、さらに研究を発展させ、低酸素下で、トレッドミルによる運動負荷をかけ肺血流分布を決定した。対象は、室内気吸入コントロール群14匹と10%の慢性低酸素暴露群14匹である。以下のように各群をさらに2群に分け、合計4群(各7匹ずつ)とし、室内気と10%低酸素状態で運動負荷をかけた:(1)コントロール群で室内気運動負荷(2)コントロール群で低酸素運動負荷(3)低酸素群で室内気運動負荷(4)低酸素群で低酸素運動負荷。(1)群と(3)群では、運動負荷時の肺血流分布に変化を認めなかったのに対し、(2)群と(4)群では、低酸素+運動負荷で血流分布はその不均一性が増大した。従って、低酸素性肺血管攣縮に運動負荷による心拍出量の増大が加わると、肺血流分布に不均一化が生じることが示された。一方、この(2)群(4)群ともガス交換効率を示す肺胞気動脈血酸素分圧較差は運動負荷時に減少し、動脈血酸素分圧も運動時に有意な上昇を示したことから、肺血流分布の変化に一致する換気分布のマッチングが生じていると推定された。低酸素環境下での運動負荷時には、肺胞レベルでのガス交換は安静時以上に良好に維持されており、組織酸素加を保つよう低酸素への順応が生じていると考えられた。
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