本研究では、足部、下腿部の下肢温浴を実施したとき、レーザー・ドップラー血流計(LDF)により指尖部と前腕部の2カ所の皮膚血流量測定を行い.局所加温による皮膚血管動態の生理学的解明を目的とした。被験者は健康な成人女子15名とし、二種類の温熱条件で実験を行った。実験1:室温25℃下で水温28℃から41℃まで毎分0.35℃の速度で上昇、その後41℃を終了まで維持、実験2:室温28℃下で水温35℃から41℃まで実験1と同一速度で上昇、その後41℃を終了まで維持した。その結果、以下のことが明らかとなった。1)実験1では下腿皮膚温が34.5℃から40℃まで上昇する間、15分間にわたり指尖部皮膚血流量には著しい減少が観察された。しかし.前腕部では皮膚血流量の減少は認められず、増加するのみであった。2)実験2の条件では、実験1で観察された指尖部皮膚血流量の減少は全く認められず、前腕部でも実験1と同様に皮膚血流量の減少は記録されなかった。以上の結果から、実験1で観察された手尖部皮膚血流量には動静脈吻合(AVA)血流が含まれていると考えられ、下肢温浴による局所加温時に指尖部皮膚血流量の減少が観察され、前腕部では観察されなかったのは、いわゆる温熱皮膚血管収縮反応(HIVC:Heat-Induced vasoconstriction)であり、指以外の皮膚部位を局所加温する時にも生じることが明らかとなった。これはHIVC反応が中枢を経由する反射性の反応であることを示唆するものである。また、実験1の条件ではHIVCが発現したが、実験2では発現しなかったことより、HIVC発現には至適温熱条件の存在することが示唆された。
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