研究概要 |
ヒトが臥位から立位に急速に姿勢変換すると、通常は自律神経反射が起きて血圧は正常に保たれるが、よく運動鍛練されたヒトは失神を起こしやすいといわれている。本研究の目的は運動鍛練者において、姿勢変換や下半身陰圧負荷装置(lower body negative pressure,LBNP)に対する耐性が低下する原因を解明することである。被験者は運動鍛練者として少なくとも6年間以上長距離走トレーニングを行っている体育専攻女子学生19名と、非鍛練者として特に定期的な運動はしていない医学部女子学生9名について、0から-60mmHgまで3分間ごとに-10mmHgずつ下半身陰圧負荷を行い、LBNP中の心臓循環系、および内分泌系の応答を調べた。その結果、実験中失神前兆候を示してLBNPを-60mmHgまで完遂出来なかった被験者は、非鍛練者では9名中2名(22%)であるのに対し、運動鍛練者では19名中12名(63%)と有意に高率であった。運動鍛練者は非鍛練者に比べてLBNP負荷時の一回拍出量(SV)の低下が大であり、LBNP中の静脈還流量が非鍛練者よりも少ないことが示唆された。おそらく運動鍛練による静脈コンプライアンスの増加がLBNP中の血液の下半身への貯留をより大きくしている考えられる。また非鍛練者で失神前兆侯を示した2名のLBNP負荷時のSVの低下は運動鍛練者と同等で失神前兆候を示さなかった非鍛練者より大であった。運動鍛練者のうち失神前兆候を示した者はそうでない者に比べてLBNP負荷時の末梢血管抵抗の増加が少なく、血圧反射の低下が示唆された。これについては現在LBNP中の交感神経活動指標として血中ノルアドレナリンを分析中である。以上より、運動鍛練によるLBNP耐性の低下は同一負荷に対する血液の下半身への貯留が非鍛練者に比べて大きいことおよび血圧反射の低下の両者が関与していることが推察された。
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