運動鍛練者は姿勢変換や下半身陰圧負荷(LBNP)に対する耐性が低下し、失神を起こしやすいと言われているが、その原因については明らかにされていない。本研究は運動鍛練によるLBNP耐性低下の原因として血管収縮反応の低下が関与しているか否かを検討した。運動鍛練者としては数年間長距離走トレーニングを行っている体育専攻女子学生19名、非運動鍛練者として17名の女子学生を被験者とした。LBNP負荷は0から-60mmHgまで3分ごとに-10mmHgずつ漸増させ、それぞれの圧力の最後に採血し、交感神経活動指標として血中ノルエピネフリン濃度(NE)を測定した。LBNP中運動鍛練者で12名(63.2%)、非鍛練者では6名(35.3%)が失神前兆候を示した。(P<0.05)。運動鍛練者の下肢コンプライアンスは非鍛練者に比べて大であった(P<0.05)。失神前兆候発現者は運動鍛練群、非鍛練群共にLBNP中の一回心拍出量(SV)の低下が顕著であったが、両群間には差を認めなかった。失神前兆候発現者のNE、および総末梢血管抵抗は非発現者に比べて著名に増加した。しかしながらSVの低下に対するNEの増加応答反応はすべての群で同一であった。以上から女子長距離走鍛練者のLBNP耐性の低下は血管収縮反応の減弱によるものではないことが示唆された。運動鍛練者では下肢コンプライアンスが増大していたことからLBNP中の下半身への血液貯留が非鍛練者よりも大きいことが推察された。
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