研究概要 |
ヒトにhead-up tiltや下半身に陰圧負荷(lower body negative pressure,LBNP)を与えると圧受容器反射が起きて心拍数の増加と末梢血管抵抗の増加が起き血圧維持反応が起きる。しかしよく運動鍛練されたヒトは姿勢変換やLBNPに対する耐性が低下し、失神を起こしやすいと言われており、本研究はその原因を明らかにする為に行った。運動鍛練者として数年間長距離走トレーニングを行っている体育専攻女子学生26名、対照として非運動鍛練者23名にLBNP負荷(0から-60mmHg)を行い、LBNP中の心臓血管応答及び、交感神経活動指標として血漿ノルエピネフリン濃度(NE)を測定した。運動鍛練者ではLBNP中に17名(65.4%)、非鍛練者では8名(34.8%)が失神前兆侯を示した(P<0.05)。失神前兆候発現者は両群共にLBNP中の一回心拍出量(SV)の低下が非失神前兆候発現者に比べて大きく、心拍数、前腕血管抵抗、末梢血管抵抗及びNEの増加反応が大であった(P<0.05)。SVとNEとのcorrelationを調べると全ての群でほぼ同一の指数曲線上にプロットされ、運動鍛練による差を認めなかった。運動鍛練者の下肢コンプライアンスは非鍛練者に比べて大であった(P<0.05)。更に失神前兆候発現者は血圧を維持した被験者よりも下肢コンプライアンスが大であった。以上から女子長距離走鍛練者のLBNP耐性の低下は交感神経を介した圧受容器反射の減弱によるものではないことが示唆された。運動鍛練者のLBNP中のSVの過大な低下は運動鍛練による下肢コンプライアンスの増大が一部関与していると推察された。
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