キャプサイシン(5mg/kg)をウレタン麻酔したラットに皮下投与すると熱放散反応と熱産生反応とが同時に誘起された。初期には熱放散反応の効果が強いが、この反応は2時間ほどで終了するのに対して熱産生反応は約十時間続いた。そのため深部体温は始めに低下した後に上昇するという二相性反応を示した。副腎髄質摘除によりキャプサイシンによる熱産生の大部分が消失し、褐色脂肪組織を支配する交感神経の切除によっても熱産生反応が減弱した。しかしながら熱産生反応が減弱した条件でも熱放散反応は正常であった。逆に、熱放散をあらかじめ最大に起こして、キャプサイシン投与による熱放散に変化のない標本においても、熱産生反応は正常に誘起された。これらの結果から熱放散と熱産生とを司る神経機構は互いに独立しており、キャプサイシンはこれらを同時に活性化すると考えるれた。 次に、ウレタン麻酔ラットにおいて、キャプサイシンの皮下投与、褐色脂肪組織の加温、褐色脂肪組織へのカルシトニン遺伝子関連ペプチドの注入をおこない、その前後でのノルアドレナリンを大腿動脈から投与して誘起される褐色脂肪組織の温度上昇を調べた。その結果、これら全ての処置で褐色脂肪組織でのノルアドレナリンによる熱産生反応が減弱した。対照として、褐色脂肪組織を除神経した場合や、P物質や生理食塩水を褐色脂肪組織に注入した場合には熱産生反応に影響なかった。これらの結果から褐色脂肪組織中に存在するキャプサイシン感受性神経は生理的には温度感受性であり、過剰な温度上昇が起きたときに熱産生を抑制し、組織を保護する機能があることが示唆された。
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