私達は、ストレプトゾトシン静脈内投与によって作製したラット糖尿病病態心におけるcAMP-PKA系によって媒介される心収縮調節機構の変調をG蛋白の変化と関連させて検討している。cAMPを賛成するアデニル酸シクラーゼ(AC)はGi蛋白によって緊張性に抑制されているので(Akaishi et al. 1997)、G蛋白の量的および質的変化を知ることは病態において特に重要である。 本年度に得られた成果は次の通りである。 1)糖尿病心筋のAC活性の非刺激時の基礎値は対照正常動物の心筋に比べて高く、NaF、GppNHpやforskolin刺激によるAC活性の上昇も糖尿病心臓で大きかった。 2) ADP-リボシル化反応によるG蛋白の量的変化を検討すると、GsおよびGiとも増加していた。 3)しかしながら、イムノブロッティング法ではGsは不変、Giは減少していた。 4)mRNAレベルではGsは不変、Giは減少していて、イムノブロッティング法による結果と一致した。以上の結果から、糖尿病心臓ではGiの相対的、もしくは絶対的な減少があることが明らかとなった。しかし、ADP-リボシル化反応法で得られたG蛋白の挙動とイムノブロッティング法およびmRNAレベルで明らかとなったG蛋白の量的変化ととは一致しなかった。その理由は現在不明である。内因性ADPリボシル転移酵素の関与も考えられる機序の一つであるが、詳細な検討は次年度に持ち越された。また、糖尿病心臓におけるGi蛋白の機能的変化の有無についての実験は未実施に終わった。 したがって、糖尿病病態心におけるG蛋白の質的変容の最終的結論は、次年度に実施する幾つかの追加実験を待たなければならない。
|