痒みは痛みと比較して不明な点が多い。痒みは痛み同様、内因性活性物質により引き起こされ、サブスタンスPなどタキキニンを含む一次求心性C線維によって伝えられると考えられている。今年度は中枢および末梢における痒みのメカニズムを明らかにするため、新生ラットの後肢の皮膚に伏在神経を繋げた神経-皮膚標本、さらに脊髄まで繋げた摘出脊髄-皮膚標本を用い電気生理学的手法を駆使して痒みの発生機序並びに伝達機構を明らかにすることを試みた。多くの実験は摘出脊髄-皮膚標本を用いて行った。なお、起痒物質としてヒスタミン、サブスタンスP、ブラジキニン、ニューロキニンAなどを用いた。生後1〜6日令のラットから摘出脊髄-皮膚標本を作製し、脊髄と皮膚を別々の灌流槽に固定し、O_295%、CO_25%を十分飽和させた人工脳脊髄液で灌流した。運動ニューロンに発生する電位変化は腰髄節前根(L3)から吸引電極を介して細胞外記録した。ヒスタミン、サブスタンスP、ブラジキニン、ニューロキニンAなどを皮膚の灌流系に3分間適用したところ、ヒスタミンおよびブラジキニンの適用で活動電位を伴う脱分極性の反射電位が記録された。一方、サブスタンスPおよびニューロキニンAでは前根電位に何の変化も認められなかった。しかし、これらペプチドの前処理によりヒスタミンおよびブラジキニンの反応が増強された結果からサブスタンスPおよびニューロキニンAが一次求心性線維終末部に対し脱分極作用を有することが示唆された。ヒスタミン、ブラジキニンにより誘発された反射電位はモルヒネの脊髄側適用により完全に消失した。以上の結果はこれら薬物により誘発された反応は痒みでなく痛みの反射電位であることが明らかとなった。臨床的にはヒスタミンにより引き起こされる痒みあるいは痛みは投与部位の違いによることが知られている。今後は痒みの反射電位のみ記録できるよう検討する。
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