癌疼痛治療におけるモルヒネの使用と依存性の関連性を明確にするため、ラットを用い慢性疼痛下におけるモルヒネの精神および身体依存性を検討した。慢性疼痛モデルはラットの足蹠に2.5%フォルマリンあるいは1%カラゲニンを投与して作製した。これらの起炎物質を投与後有意な足蹠の肥大および痛覚閾値の減少が投与翌日をピークとしてそれぞれ9日間あるいは13日間観察されたので、この期間を慢性疼痛と見なした。モルヒネの精神依存は場所嗜好性試験により評価した。疼痛下におけるモルヒネの精神依存は対照群に比較し有意に抑制された。そこで、疼痛強度とモルヒネ精神依存の抑制の関連性を検討したところ、これらの間には正の相関関係が得られた。すなわち、疼痛が強ければモルヒネ精神依存の抑制も強度であることを明らかにした。疼痛下におけるモルヒネ精神依存の抑制機構を検討するため、δおよびκオピオイド受容体拮抗薬の影響を検討した。その結果、疼痛下におけるモルヒネ精神依存の抑制はκオピオイド受容体拮抗薬により完全に消失した。また、前頭辺縁部におけるモルヒネ誘発ドパミン代謝回転亢進作用も疼痛下では抑制されこの抑制がκオピオイド受容体拮抗薬により消失した。一方、モルヒネ混入飼料を1週間処置後、休薬を行い退薬症候を観察して身体依存を評価した。疼痛下ではモルヒネの身体依存の形成も有意に抑制され、またモルヒネの用量を漸減することにより退薬症候は全く観察できなかった。モルヒネの退薬症候はκオピオイド受容体拮抗薬により憎悪され、作動薬により抑制される。これらの結果より、癌疼痛時にモルヒネを使用しても依存性は問題にならないという臨床経験を実験的に証明した。さらに、このような抑制機構として疼痛下にはκオピオイド系が亢進し、モルヒネの精神依存や身体依存を抑制することを明らかにした。
|