〔目的〕近年、先天性銅代謝異常症であるウィルソン病の原因遺伝子として、重金属を輸送するP-type ATPaseをコードするATP7B遺伝子が同定された。一方、ウィルソン病と同様な銅代謝異常を呈するLECラットにおいても、この遺伝子の相同体であるAtp7b遺伝子の異常が見つかり、このラットがウィルソン病の動物モデルとして有用であることが明らかにされている。しかし、ウィルソン病あるいはLECラットにおいて、これらの遺伝子の異常が、銅代謝異常を引き起こしているという直接的な証拠は、未だ示されていない。そこで、本研究では、ATP7B遺伝子産物の細胞内での動態および機能を明らかにし、さらに、この遺伝子をLECラット肝臓に導入し、ウィルソン病に対する遺伝子治療のモデルとすることを目的とした。 〔成果〕まず、ATP7B遺伝子を組み込んだ発現ベクターを、リン酸カルシュウム法により、COS-1細胞に導入し、その産物の細胞内での局在を、細胞分画法、蛍光免疫染色法で解析したところ、主に、ゴルジ装置に存在することが明らかとなった。 次に、遺伝子導入のために開発された非増殖型アデノウィルスに、ATP7B遺伝子を組み込み、この組換えアデノウィルスをLECラットに投与し、ATP7B遺伝子の肝臓での発現を検討した。この結果、この遺伝子産物は、肝臓で発現していることが確認され、培養細胞と同様に、主に、ゴルジ装置で局在することがわかった。さらに、LECラット血中に銅を結合したホロ型セルロプラスミンが血液中へ出現し、また、血中の銅濃度が増加したことから、導入されたATP7B遺伝子が機能し、肝臓内の銅代謝に深く関与していることが示唆された。以上のことより、本研究が、ウィルソン病に対する遺伝子治療のモデルになり得ると考えられた。
|