(目的)肝臓に銅が異常蓄積することで知られているウィルソン病の原因として、WND(ATP7B)遺伝子がすでにクローニングされ、その産物として、銅輸送P型ATPaseが推定されているが、その生体内での機能は明らかにされていない。また、ウィルソン病のモデル動物であるLECラットでは、この遺伝子に異常があるために、肝臓に銅が蓄積し、肝炎・肺がんを発症することが知られているが、肝臓からの銅排出に、このWND蛋白がどのように関わっているかは明らかにされていない。そこで、我々は、アデノウイルスをバクターとした遺伝子導入法を用いて、WND遺伝子をLECラットの肝臓に導入し、WND蛋白の肝細胞での局所および機能を解析した。(方法)COS-TCP法により、完全長のWND cDNAをアデノウイルスベクターに組み込み、1×10^<10>pfuの組換えアドノウイルスをLECラットの尾静脈より投与した。WND蛋白の発現は、免疫蛍光抗体法・ウェスタンブロット法により、血中のホロセルプラスミンは、非変性アクリルアミド電気永動法・ウェウタンブロット法により検討した。銅含量は、原子吸光計にて測定した。(結果)WND蛋白の肝臓内での発現は、ウイルス投与後1日目で見られ、3日目で最大となり、徐々に減少し10日目まで続いた。また、WND蛋白は、ゴルジ装置に局在していることがわかった。血中への銅の排出は、ホロセルトプラスミンの分泌とともに、ウイルス投与後1日目から見られ、3日目で最大となり、徐々に減少し14日目まで続いた。(考察)組換えアデノウイルスを用いた遺伝子導入によって高率よく肝臓内に発現したWND蛋白は、細胞内のホロセルプラスミン生成過程における銅輸送系深く関与していることが示唆され、その機能を発現する場は、ゴルジ装置であることがわかった。また、組換えアデノウィルスは、ウィルソン病に対する遺伝子治療に有用である示された。
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