研究概要 |
「ODCが癌原遺伝子で癌細胞浸潤さらに癌転移において大きな役割を果たす」との作業仮説をたてて以下の実験を行い、仮説を支持する成果を得た。ラットODCのcDNAを発現ベクター(pCRL-SRα296)に組み込み、マウス線維芽細胞(10T1/2)にNeo遺伝子と共にトランスフェクトした。G418含有培養液で2週間培養後、G418抵抗性のトランスフェクタントを選択した。個々のトランスフェクタントのODC活性測定とノーザンブロット解析により、ODC過剰発現トランスフェクタオントを4株(ODC-1-4)確立した。同時にcontrolのトランスフェクタント(Neo-1-3)も確立した。ODC-1-4は、いずれもフェーカス形成能及び軟寒天中での増殖能を有し、一方、Neo-1-3および10T1/2細胞は、フォーカス形成能及び軟寒天中での増殖能は全くなく、ODC過剰発現トランスフェクタントのみ癌化したことが証明された。さらに、in vitroでBoyden chamberを用いて、ODC-1-4の細胞浸潤能を測定したところ、Neo-1-3および10T1/2細胞に比して、約3倍浸潤能が亢進していることが判明した。これらの結果は上記の仮説を支持する。さらに、ODC過剰発現が、癌化および浸潤能亢進を引き起こす機能を解明するため、以下の実験を行い、興味ある結果を得た。チロシンリン酸化が癌化と密接な関連のあることが知られている。そこで、ODC-1-4のチロシンリン酸化の程度を抗Tyr抗体を用いて測定したところ、分子量4万前後の蛋白質のチロシンリン酸化が亢進していることが判明した。抗MAP kinase抗体を用いて、この蛋白質を同定したところ、MAP kinase(42kDa,44kDa)であることが明らかとなった。この結果は、ODC情報伝達系の下流でMAP kinaseが働いていることを初めて明らかにした。
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