新規情報変換酵素ホスホリパーゼD(PLD)は分泌応答などの迅速応答から、細胞の増殖・分化といった中長期的応答にまで関与していることが示唆され多大な注目を集めているが、精製の困難さからその性状の解析は遅れていた。1995年末にFrohman博士ら(ニューヨーク州立大)により、最初の哺乳動物PLDとしてヒトPLD(hPLD1)遺伝子がクローニングされ、最近我々はHL60細胞のhPLD1遺伝子を解析する過程でalternative splicingを世界に先駆けて見いだし、また類似した別の遺伝子(hPLD2)の存在にも気がついた。ラット褐色細胞腫PC12細胞でも同様に2種以上の遺伝子が存在することを確認し、PC12細胞ライブラリーからrPLD1、rPLD2をクローニングし、FIS法で遺伝子座を決定した。また、HL60細胞、PC12細胞、ラットグリオーマC6細胞で分化誘導あるいはアポトーシス誘導時にPLD mRNAの発現パターンが変動することを明らかにした。一方、ブタノールやエタノールあるいはプロプラノールといったPLDからホスファチジン酸、ジアシルグリセロール産生を抑制する試薬により、増殖因子刺激時の転写因子c-fos、c-junの発現が阻害されることから、PLDは増殖因子によるシグナル伝達経路に深く関与していることを明らかにした。また、PLDの活性化メカニズムについても検討を加え、分化HL60細胞では走化性因子によるPLD活性化にホスファチジルイノシトール3キナーゼが関与していることを示し、その下流でチロシンキナーゼが機能していることを示唆する結果を得た。さらに、PC12細胞では過酸化水素(H_2O_2)かチロシンリン酸化を介してPLDを活性化することを示した。今後は、さまざまなPLD変異体を発現した培養細胞を作成し、細胞増殖・癌化、分化に対するPLDの役割を明らかにする予定である。
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