研究概要 |
IgEとIgG以外のFcレセプター(FcR)の中で分子レベルで機能解析が進んでいる唯一のものはヒトのIgAのレセプター,FcαRである.一方,本研究において目標としたマウスFcαRを単離する試みは今のところ成功していないが,この研究の過程において意外な副産物を産み出した. キラー抑制レセプター(KIR)はMHCクラスI分子をリガンドとして認識することによりNK細胞,一部のT細胞の活性抑制を行う.KIR細胞内領域のチロシンリン酸化された抑制モチーフITIMにSHP-1が動員されることの重要性が示されている.p58などのKIRはFcαRや機能不明なマウスgp49との相同性が高いことがクローニングされた当初から指摘されていた.我々はヒトFcαRのcDNAをプローブとしてマウスFcαRのクローニングを試みていたが,KIRやFcαRに似た新規な分子群を単離した.我々はこれらがNK細胞を除く多くの細胞種に発現していることを示し,p91と命名したが,FcRとしてのIg結合活性は検出できなかった.この分子群の興味深い点は,細胞外領域が極めて多型性に富む,複数の遺伝子群で構成されるファミリーであることで,特にその中で細胞内領域にITIMに類似した配列を有する分子が存在することが注目に価する.マウスにおけるIgSFに属するKIRではないかと考えられたgp49Bは,確かにNK細胞に発現し,抑制機能を有していることが示されたが,MHCクラスI分子に対応するために必要と思われる多型性が見られない.一方,p91分子群は多型性に富むがマウスNKには発現しておらず,分布はFcγRIIBに近い.よってこれら分子群は遺伝子進化上,FcRとKIRの境目,中間に位置するたいへん興味深いグループであり,リガンドの解明やシグナル伝達のメカニズムなど今後の研究の発展が期待される.
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