研究概要 |
転写因子CRE-BPlはCRE配列(TGACGTCA)に結合して転写を活性化する。またCRE-BPlはJunとヘテロダイマーを形成してCREに結合する。そしてCRE-BPlはストレス応答リン酸化酵素として知られるJun kinase(JNK)で特異的にリン酸化され、活性化される。一方アデノウイルスElAはCRE-BPlとTBPに結合し両者のブリッジとして機能する。このようにCRE-BPlはJun,TBPとの相互作用を通じてCREを持つ特異的標的遺伝子の転写を活性化し、生体内で重要な役割を果たしている。CRE-BPlの生理機能および作用メカニズムを理解するためにはCRE-BPlの構造を理解すると共に、変異マウスの作製・解析が必須である。ES細胞における相同組み換えを用いてCRE-BPlの変異マウスを作製した。CRE-BPl変異ヘテロマウスには何らの異常も認められなかったが、CRE-BPl変異ホモマウスは呼吸困難のため生後すぐに死亡した。生まれるまでの胎児の発生には異常は全く認められなかった。一連の解析の結果、胎児の肺には羊水が詰まっており、生後すぐに起こる肺への空気の吸入が起こらないことがわかった。これは胎児の時期に呼吸を開始して、羊水が肺に吸入されてしまう胎便吸入症候群と同様の症状である。病理学的解析の結果、胎児と胎盤をつなぐ組織に微細な異常が認められ、このため胎児が低酸素状態となり呼吸を開始してしまうと推定された。胎便吸入症候群はヒト新生児の死亡原因の約30%を占めており、種々のメカニズムで生じると考えられている。しかし、そのメカニズム、治療法などについて疾患モデル動物がないために、ほとんど研究が進んでいない。したがって、この変異マウスはこの疾患の今後の研究に大変有用であると思われる。また、この変異マウスを用いて、どのような標的遺伝子の発現が変化することによりこのような症状が現れるかについて研究することはCRE-BPlの生理機能を明らかにする上で大変重要である。またCRE-BPlと構造の類似する2つの関連遺伝子CRE-BPa,ATF-aについても同様に変異マウスの作製・解析を進めた。
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