研究概要 |
ヒト尿中に存在することが最近見出され、腫瘍マーカーとしてすぐれた特性を持つことが示された新規のポリアミン成分、ジアセチルスペルミジン(DiAcSpd)およびジアセチルスペルミン(DiAcSpm)について、その代謝を明らかにし、悪性腫瘍診断への応用の生化学的基礎を解明することを目的として研究を行い、以下の結果を得た。 1.多孔性膜上で培養したブタ腎上皮由来細胞(LLC-PK_1)を用いて、ポリアミン輸送系について検討を行った結果、プトレッシン、スペルミジン、スペルミンのすべてを共通に基質とする輸送体が側底膜に1種類、頂端膜には2種類存在することが明らかになった。腎尿細管におけるポリアミン再吸収のモデルとして頂端膜の輸送系な基質特異性について、放射性基質を合成して詳しく検討した結果、モノアセチルポリアミン、遊離ポリアミンとは異なり、DiAcSpd,DiAcSpmは細胞内に輸送されず、腎臓において再吸収、再利用されないことが明らかになった。再吸収の欠如により生体内における生成量が比較的正確に排泄量に反映されることは、ジアセチルポリアミン(DiAcPA)の腫瘍マーカーとしてのすぐれた特性を規定する要因の一つであると考えられる。 2.DiAcPAの代謝の研究にも適用可能な迅速、高感度のDiAcPA定量系を確立するために、DiAcSpd,DiAcSpm特異的抗体の作成とそれらを用いた酵素標識抗体法によるDiAcPA測定系の開発を行った。DiAcSpd,DiAcSpmに類似の分子形状をもつハプテンを作成して抗血清を得、さらにポリアミン固定化カラムを用いた抗体の親和性精製によってDiAcSpd,DiAcSpmのそれぞれに対して高度の選択性を示す特異的抗体を調製することに成功した。この抗体を利用することによって、0.1μM以下のDiAcSpd,DiAcSpmを、共存ポリアミンの妨害を排除して正確に定量することが可能になった。
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